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TOP INTERVIEW

多様な技術と理解の
「インテグレーション」力を磨く

大久保 宣夫 氏
自動車技術会 会長、日産自動車 最高技術顧問

2008年を迎える現在、国内自動車メーカーの業績は好調に推移しており、それを支える高い技術力についても高い評価を得ている。この技術力を育てる基礎となったのが自動車技術会である。自動車技術会会長を務める日産自動車最高技術顧問の大久保宣夫氏に、自動車技術の進化とエレクトロニクスの関係、今後の自動車技術進化の展望などについて聞いた。 大久保 宣夫 氏
オオクボ・ノブオ 1964年、東京大学工学部機械工学科卒業、日産自動車入社。1986年シャシー設計部次長、1991年車体統括設計部長に就任。1992年取締役、1997年常務取締役、1999年取締役副社長を歴任し、2005年にCTOに。2006年4月から現職。2004年から日産車体取締役会長、2005年からFISITA(国際自動車技術会連盟)Vice President, Internal Relation、2006年から自動車技術会会長を務める。

 国内自動車産業の歴史は戦前から始まっているが、当初は軍事や商用のトラック製造が中心であり、基本的には欧米の自動車を見よう見まねで勉強するという状態だった。国内メーカーによる乗用車の開発が本格的に始まるのは戦後以降になるが、その基礎となったのが戦後まもない1947年に設立された自動車技術会だ。
  戦前に自動車や航空機開発に携わっていた機械技術者達が、新しい夢として見出したのが国産自動車の開発であり、彼らを含めて多くの技術者にとって自動車開発の勉強をするための学会と協会の役割をあわせ持つ実際活動型組織が必要だった。東京であればまだ焼け野原だったわけであり、当時の技術者達の設立に向けての熱意がなければ、現在の国内自動車産業の隆盛はなかったかもしれない。
  また、企業側も積極的に協力しており、大学に自動車を志向する技術者を育てる基盤ができたのも、今でいう産学連携のような活動があったからだ。当初は1500人程度だった会員数も、60年経った現在は4万2000人近くにまで増えて国内最大規模の学会組織に成長した。若い技術者も入会しており、活動は活発だといえるだろう。

電子制御で排気ガス規制に対応
  国内の自動車産業が大きく成長し始めたのが、東京オリンピックが開催され、東名高速道路の建設も始まった1964年前後になるだろう。日産でも、神奈川・追浜に“東洋一”のテストコースが完成し、月産2万台を超えるなど事業が拡大していった時期にあたる。
  技術面では、1967年に発表した日産のブルーバード510型を例に挙げれば、四輪独立懸架をはじめ全面的に最新技術を採用することで、世界トップクラスという評価を得ることができた。1970年代に入る前には、国内の自動車の機械技術は欧米と同水準に達していたと思う。さらに、米国で施行された「マスキー法」の厳しい排気ガス規制基準を最初にクリアできたのが国内メーカーだったことも重要な成果だろう。
  これらの排気ガス規制で、大きな役割を果たしたのがエレクトロニクス技術だ。エンジンの燃料噴射を最適化することで燃費向上が可能になるが、そこで採用されたのがマイコンを使ったECUによる電子制御装置である。この機能の開発で先行することにより、国内メーカーの自動車技術は世界水準と認められるようになった。
  当時の自動車技術会でも、清浄な排気の実現や空燃比の最適化などに注目しての議論は活発だった。日産も、日立製作所と共同開発した電子式エンジン集中制御システム「ECCS」の技術論文を発表しており、国内各社の研究開発に貢献する場になっていた。

エレクトロニクスは50%以上に
  エンジン制御以前にも、カーラジオなどとしてエレクトロニクス技術は自動車の中に入っていた。似たような製品として1980年代から自動車の利便性、快適性向上のために搭載されるようになったカーオーディオやカーエアコンがあるが、これらは先行して発展した民生家電の技術を応用したものであり、既存の技術をうまく適用・改善したものといえる。
  一方で、ECCSをはじめエンジン制御に応用したエレクトロニクス技術は、他の何ものでもない自動車本来の機能のために開発された技術であり、自動車技術者が自動車開発のためにエレクトロニクス技術を勉強する端緒になったといえる。また、現在のようにパワートレインをはじめ自動車の機械の動きを制御する機能がエレクトロニクス技術に置き換えられるようになったのは、高機能でありながらコストを低減できるという特徴があったからだ。エンジン制御への採用を端緒に、このエレクトロニクス技術の特徴が自動車技術者に浸透することで、段階的ではあるものの自動車へのエレクトロニクス技術の採用が拡大してきたのだろう。同じ機能を5年間で30〜40%コスト削減できたという事例もあり、これは機械技術だけでは実現できなかったと思う。
  現在、エンジンをはじめパワートレインの制御を行っているエレクトロニクス技術が、今後は電気自動車や燃料電池車のモーターのようにパワートレインそのものを構築する将来像も見えてきた。またカーナビゲーションはある程度浸透しているものの、車外との通信を含めたインフラ協調など「情報」の要素が入ってくることで、エレクトロニクス技術の応用の余地はまだまだ広がっていくはずだ。現在は、自動車のコストにおけるエレクトロニクス関連の比率は約30%程度だが、このまま順調に技術が進歩すれば、50 %、60%を占めるようになるだろう。

どのように取り入れるか
  このように、自動車に採用するエレクトロニクス技術を増やしていくのであれば、自動車メーカーにも多くのエレクトロニクス専門技術者が必要になる。しかし現時点では、自動車メーカーの技術者の多くが機械技術者であり、一般的にエレクトロニクス関連の技術者は全体の20%強程度しかいない。確かに自動車が機械系であるシステム工学に属するとはいえ、将来的にコストで50%を占めるであろう技術について、20%程度という状態は非常に心もとない。今後の自動車開発で重要さが増すソフトウエア技術者まで含めれば、人材の育成と確保は急務だ。
  しかし、大学をはじめ国内のエレクトロニクス研究基盤が力を失いつつあると聞いており、非常に憂えている。自動車だけでなく国内の製造業全体がまだまだエレクトロニクス技術者を求めている以上、強化していく必要があるだろう。
  また、エレクトロニクス業界と自動車業界の接点をもっと増やす必要があるだろう。たとえば、学会組織としてエレクトロニクス分野には電気通信学会があり、自動車分野のエレクトロニクス技術者も所属しているが、自動車のエレクトロニクス比率が今後も伸びて行くことを考えれば、自動車技術会に他分野からもっと多くのエレクトロニクス技術者に参加して欲しいと考えている。
  通常の学会組織では、関連する技術を進化させることがその役割だが、技術は進化すると同時に細分化も起こる。学会組織として自動車技術会が特異なのは、自動車というアプリケーションに対して、進化した技術をどのように取り入れるかに軸足を置いているところにある。一般のエレクトロニクス技術者にとっては、自動車というアプリケーションへの各種先端技術の応用例を学ぶ良い機会になるし、自動車業界にもエレクトロニクスの最新技術を提案してもらいたい。

周辺技術を取り込む
大久保 宣夫 氏  今後の自動車開発では、エレクトロニクス技術にとどまらずさらに多くの分野の技術が必要になってくるだろう。たとえば、安全技術ではエアバッグなどの衝突安全技術が一般的になったが、現在はさらに安全レベルを一段階進められる予防安全技術の開発が重要になっている。ここでも、車載カメラや各種センサーなどエレクトロニクス技術が応用されているが、人とクルマの関係性を考えた上で制御や動作をさせればさらに安全性が高まるはずだ。この場合、心理学や社会学も自動車開発の技術要素となってくる。
  また高齢化社会を考えた場合、高齢者の移動手段は最終的には自動車に行き着くだろう。特に公共交通網が都市ほど発達していない地方でこそ求められるはずだ。しかし、たとえば85歳でも運転できる自動車となれば、単なる機械技術、エレクトロニクス技術だけで実現できるものではない。実際に、自動車技術会の2007年秋季大会では、「パーソナルモビリティの将来像を展望する」という内容で、高齢化社会に対応する自動車に必要な技術開発について議論が盛り上がった。このように、現在の技術分野だけにとどまらない視点が不可欠だろう。
  私が日産に入社した当時は、バネやバルブなど鉄をどのように加工するかが最大の課題であり、自動車メーカー自身で対処していた。しかし採用する技術分野が広がっていくとともに、現在のようにサプライヤと協力して製品開発を行う範囲がどんどん広がった。今後も、周辺技術を取り込むことで、自動車技術は発展する。自動車は、さまざまな分野の技術を一同にそろえた展示会場のようなものだ。

全体を見渡す技術者
  国内の自動車産業が、他産業と比べて好調なのはなぜかと聞かれることも多い。技術開発の特性からいえば、極端にある先端技術を志向した開発を行っているのではなく、多様な技術を自動車という製品に組み込むアプリケーション技術が中核にあるからではないだろうか。製薬業界のようにひとつの新薬開発で浮き沈みが出るわけではなく、足りない技術はクロスライセンスなどを利用して補うことができる。
  自動車の技術者にとって重要なのは、全体を見渡し、各種技術分野を利用して製品を組み立てる「インテグレーション」の能力。そして、ユーザーである一般消費者が何を求めているかを理解することだ。たとえば、カーナビの表示がブラウン管から液晶ディスプレイに替わっても、ユーザーのことを考えた上で明確な目標設定を行った上で、太陽光があたる場合の見え方や視野角など液晶ディスプレイの機能を評価し、どのように製品に利用できるかを考えればよい。
  開発の人件費削減のために、中国やインドなどに開発機能を分散する企業が増えている。実際に、ハードウエア、ソフトウエアともモジュールレベルであれば、海外で行うことは十分に可能だろう。しかし、国内の中核開発拠点で最終的に自動車として完成させるのであれば、各種技術とともに自動車という製品をよく理解した技術者による「インテグレーション」が必要だ。そういった技術者育成のためにも自動車技術会の役割はいっそう重要になってくるだろう。

(聞き手:朴 尚洙)

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