ソフトウエアが
カーエレクトロニクスを進化させる
欧州の自動車業界は、燃料消費と有害な排気ガスを減らすことで環境保護を実現することを主要な開発テーマとして、エレクトロニクス技術の利用を進めてきた。最近では、カーエレクトロニクス中核の集積といえるECU(electronic control unit)の開発設計用のソフトウエアにも注目が集まるようになっている。これらのソフトウエアをはじめ、2007年9月の「フランクフルト・モーターショー(IAA)」で発表された技術開発成果を紹介する。
大規模ECUの開発
従来の自動車では、一つの機能に一つのECUが対応するのが一般的だったが、最近では車両統合制御などで複数のECUを使って一つの機能を実現するという例も増えている。さらに、グローバル展開のため増大する製品ラインアップに効率的に使用できるように、ECU用ソフトウエアを再利用可能にするコンポーネント化も進んでおり、ECU開発は複雑になってきている。ドイツdSPACE社は、これら大規模ECUシステムの開発と管理を行うGUIベースのシステム設計ツール「SystemDesk」を開発した(図1)。
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図1 dSPACE社のSystemDesk
大規模ECUシステムに用いるシステム・アーキテクチャ・ツールで、AUTOSARにも対応する |
SystemDeskでは、ソフトウエアアーキテクチャ、ハードウエアの構成、ネットワーク通信など、それぞれ異なるシステムの記述について個別にモデル化することで、自動車機能のアプリケーション開発とシステム設計をモデルベースで行えるようにした。初期の設計段階から体系的な記述を行うので、既存のECUシステムに場当たり的にECUを付け加えるような開発手法と異なり、必要なECUの数なども含めて最適な設計を短時間で行える。
生成したモデルとソフトウエアコンポーネントの連携は、欧州の自動車ソフトウエア標準規格「AUTOSAR」準拠の量産コード生成ツール「Target Link」を通して行う。TargetLinkの機能により、AUTOSAR準拠のソフトウエアだけでなく、従来のC言語ベースのソフトウエアでもSystem Deskを運用できるようになっている。
また、AUTOSARでベーシックソフトウエアと呼ばれる、ドライバやハードウエアI/Oなどの下位層との接続は、最適なランタイム環境を生成することで対応する。さらに、ベーシックソフトウエアの開発を行うフィンランドElektrobit社の「EB tresos」と連携することで、アプリケーション層とシステム設計を担当するSystem Deskと合わせて、AUTOSARベースのECU開発プロセスをすべてカバーすることが可能になる。
FlexRay開発を容易に
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図2 Vector社のVN3300およびVN3600インターフェース |
ドイツVector Informatik社は、プログラミング・インターフェース「XL-Driver-Library」に、従来の車載ネットワーク規格であるCAN、LIN、MOSTに加えて、次世代規格FlexRayに対応する機能ライブラリを追加した。FlexRayの標準機能は、PCIインターフェース付きの「VN3300ハードウェア」と、USBインターフェース付きの「VN3600ハードウェア」に用いるXL-Driver-Libraryの構成要素として含まれている(図2)。最高128の個別のフレーム送信、単発モードまたは周期モードでの送信、データ、Nullフレームおよびエラーフレームの受信などが可能になる。
さらなる機能拡張が可能な「Advanced FlexRay-Driver-Library」でも、これらのFlexRayインターフェースを利用できる。たとえばネットワーク・ノードを追加せずにFlexRayクラスタをコールド・スタートするための補助的な通信コントローラや、1000以上の独立した送信メッセージに用いる2Mバイトメモリ、ハードウエアによるペイロード・フィールドの増強など、特殊なFlexRay拡張機能を提供している。
マイコン制御で環境対応
新たな排出規制に対応するため、ドイツInfineon Technologies社は、「AUDO FUTURE」ファミリーという32ビットマイクロコントローラを導入した。これには、マイコン機能とデジタル信号処理、高密度フラッシュメモリを組み合わせた「TriCore」という技術を採用している。また、ドイツTUV社が認証した初のFlexRay通信ブロックが含まれているだけでなく、AUTOSARソフトウエアと周辺制御プロセッサも組み込まれており、システム性能がさらに高められている。AUDO FUTUREは、同社の前世代の32ビットマイコン「AUDO-NG」ファミリーと完全に互換性があるので、たとえばパワートレイン・アプリケーションの開発者が、既存のツールを用いて設計をアップグレードし、ピエゾ式直噴エンジンを用いてEURO5やEURO6のような新しい排出基準に対処することも容易である。処理能力は前世代に比べて30%向上しており、故障診断システム「OBD2」や米国のLEV2などの規制にも対応する。
ラインアップは、4MバイトフラッシュメモリとFlexRayコントローラを内蔵した駆動周波数180MHzの「TC 1797」、2Mバイトフラッシュメモリを内蔵した133MHzまたは80MHzの「TC1767」、1Mバイトフラッシュメモリを内蔵した80MHzの「TC1736」がある。幅広いオンチップ周辺回路は、専用のプログラマブル周辺制御プロセッサ(PCP)エンジンによって処理され、TriCoreは、エンジン管理、トランスミッション制御、およびそのほかのパワートレイン機能の処理に集中することができる。
TC1797に内蔵されているFlexRayコアについては、Infineon社がFlex Rayコントローラ「CIC310」を個別に設計した実績をもとに組み込んでいる。AUDO FUTUREはすでにサンプル出荷を開始しており、144ピンもしくは176ピンのLQFPパッケージ、または260ボールもしくは416ボールのBGAパッケージで供給している。量産開始は2009年の予定だ。
ピエゾ効果で電力供給
現行の一般的なタイヤ空気圧監視システム(TPMS)は、タイヤの空気圧と温度をバルブで直接測定し、車両の側面にあるアンテナにデータを無線で送信している。ドイツSiemens VDO社の新しいインテリジェント・タイヤ・システム(ITS)は、センサー、通信システム、識別回路、および処理回路が、タイヤ内部に直接設置した1つのモジュール内に組み込まれている(図3)。このモジュールは、空気圧をはじめタイヤに関するさまざまなデータ検出を自動で行い、システムの制御回路にデータを送る。ブレーキ支援システム、安定制御システム、運転制御システムなどほかの車載電子システムにこれらの情報を送信することも可能だ。第1世代製品の量産は2011年を予定している。
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図3 Siemens VDO社のインテリジェント・タイヤ・システム
ピエゾ素子を用いて電気エネルギーを供給する。 |
通常のTPMSはバッテリで駆動しているので、定期的に交換する必要がある。しかしITSは、圧電素子であるピエゾ素子を組み込んでおり、ピエゾ効果を利用してタイヤの回転から電気エネルギーを発生させてシステムに供給する。エンジンのピエゾ・インジェクタ開発で先行してきた同社の技術を応用したものだ。
同社は、このITSを車車間通信ネットワークや移動体安全ネットワークに組み込むことも計画している。タイヤにITSを装備すれば、路面の滑り抵抗データを収集してその情報を他のドライバーに送信し、道路状況について注意を喚起することも可能だという。これらのインフラ協調システムが、インテリジェント・トランスポート・システム、「ITS」の省略で呼ばれていることは、ものごとを分かりにくくする可能性はあるが、タイヤのITSが重要な技術であることもまた確かだ。
直噴ガソリンエンジンの成果
ドイツRobert Bosch社が開発した最新式の第2世代「DI-Motronic」は、混合気の生成を改善し、二酸化炭素(CO2)、炭化水素(HC)、および窒素酸化物(NOx)の排出量を大幅に削減する(図4)。低温始動時の燃焼プロセスを最適化することによって、触媒コンバータの加熱時間が短縮され、排出量は最も厳しい米国のSULEV(超低公害車)の限度値も下回っている。またDI-Motronicは、将来の排出規制に適合することも可能である。
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図4 Bosch社の第2世代DI-Motronicシステム
混合気の生成を改善し、CO2、HC、NOxの排出量を削減している。 |
この新世代のガソリン直噴システムにより、燃焼効率が改善され、エンジンの総合効率が高まった。ターボチャージャと併用すれば、ガソリンを直接噴射することによってエンジンを小型化することもできる。DI-Motronicでは、層状チャージングによる希薄燃焼方式と、予混合圧縮着火の両方を、理想的に実現することができる。さらに、地域によって異なる燃料の品質に対しても、Bosch社のガソリン直噴システムは世界中のほぼどこにでも対応できるとしている。
DI-Motronicは、小型・軽量を特徴とするHDP5高圧ポンプ、最高7種類の噴射パターンを持つ磁気制御式のHDEV5高圧噴射バルブ、最高200気圧の噴射圧で動作し、極めて高速なマルチ噴射も可能なHDEV4ピエゾ式インジェクタなど、各構成要素に新たな技術を盛り込むことで、厳しい排出規制に対応する技術を実現している。
Bosch社ではほかにも環境対応として、小型ディーゼルトラックとディーゼル車用に尿素水溶液噴射装置「Denoxtronic」を開発している。SCR(選択接触還元)触媒コンバータと併用されるDenoxtronicは、専用の尿素水溶液「AdBlue」を反応剤として排気ガス流に噴射することによって、排気ガス中に含まれるNOxを無害な水蒸気と窒素に分解する。このプロセスにより、NOxの排出量を最大85%削減できるという。
NOx以外でも、規制対象となっている粒子状物質の削減に向けてフィルターに関する事業展開を強化している。2007年7月にデンソーと、コージェライト(菫青石)製のディーゼル・パティキュレート・フィルター(DPF)の共同生産をポーランドで開始すると発表した。2009年にも出荷を開始する計画。コージェライトDPFは、その適応性が三元触媒コンバータで既に証明されており、優れた耐熱性と低い通気抵抗を長所としている。従来から使用されて来たシリコンカーバイドと比較すると、製造に要するエネルギーが少なくて済み、資源保護や製造コストの削減も可能だ。
(Wolfgang Patelay) |