電動パワーステアリングを制御する
マイコンアーキテクチャ
Robert Weiss ドイツInfineon Technologies社
自動車の走る、曲がる、止まるに関する機能の電動化は将来に向けた大きな技術開発テーマだが、すでに実際に自動車への採用が拡大しているのが「電動パワーステアリング(EPS)」である。EPSを構成するセンサーやモーターの制御には、厳しさの増す安全性要求に耐えうるマイコンが必要になる。
EPSは、従来の油圧ステアリング支援装置の代わりに電子制御のモーターを利用する。省スペース、組み立てが容易、燃費も抑えられ、有害な油圧オイルを使う必要もない。
EPSシステムの構成
EPSシステムは、制御ユニット、複数のセンサー、モーターで構成される(図1)。制御ユニットは、システムを制御し、モーターに必要な情報を送る。またセンサーから、ステアリング角、走行スピード、およびトルクなどを測定した情報を受信する。センサーがモーターの位置と電流を検出することによって、モーターは最適な動作点で動作することができる。
モーターは、原則として三相同期モーターまたは非同期のブラシレスモーターである。モーターの回転磁界は電子的に発生し、パルス幅変調(PWM)信号で速度とトルクを操作する。信号の周波数は約20kHzである。
ローターの位置データは、ロータリーエンコーダまたは磁気センサーから得られる。相電流の検出は、シャントまたはホールセンサーで行い、電流をDC回路内で測定することによって、全体のコストを削減できる。また、上述したセンサーのアナログ出力を処理するには、増幅する必要がある。ステアリング・カラムに作用する力、すなわちモーターが支援しなければならない量は、トルクセンサーで測定する。
信号の処理は、制御ユニットの内部で行う。ホイールセンサーは走行スピードに関する情報を提供し、ステアリング角センサーはハンドルの現在位置に関する情報を提供する。これらの信号は別の制御ユニットで処理しCAN上で送信する。一部のロジックICはセンサーと一体化することができ、精度が改善され、故障しにくくなる。
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図1 監視機能付きEPSシステムの制御ユニット |
制御ユニットとアルゴリズム
EPSシステムには、モーターの力学やトルクの安定性という観点からベクトル制御が用いられている。このタイプの制御は、モーターの回転子磁界に直接作用し、かなり高い処理能力が求められる。多重座標変換(クラーク/パーク変換)の計算を伴い、相電流をともに50μs間隔で制御しなければならないためだ。空間ベクトル法でモーターを制御するには、パルス幅変調信号が必要である。CPUは自己診断とネットワークとの通信も実行しなければならないため、パワフルな16/32ビットマイコンが必要になる。
EPSでは、システム全体を正確に監視することが必要不可欠だ。監視には、ハードウエアとソフトウエアの組み合わせが必要で、ハードウエアには、独自のクロック発生ロジックと電圧監視機能の付いた独立した監視機構が最低限必要である。必要なテスト回数と堅牢性の程度によって異なるが、別なマイコン(8/16ビット)が必要なこともある。完全自律型のマイコンを用いることによって、制御ユニットの機能的信頼性が高められる。
マイコンとシステムの自己診断は、ソフトウエアで別々に行う。フラッシュメモリの誤り訂正、オペレーションコード・デコーダ、割り込み調停、およびコンテキストスイッチなどのマイコンのハードウエア部分は、システムの電源を立ち上げた際にテストされる。ランダム値をデータセグメントに書き込み、一定間隔で読み出す。信頼性を高めるため、周期的冗長検査(CRC)を用いて影響を受けやすいデータを検証するが、そのためにデータを2回書き込んで比較している。
システム全体のテストは、偽の故障を入力して制御ユニットの反応を確認するという方法で行う。システムが正しく機能していることを確認する場合、2つの異なる方法でアルゴリズムを実行してその結果を比較するという方法がある。
システム監視に必要な機能
安全性や信頼性と同時にリアルタイム処理も求められることから、システム監視を行うプロセッサに対する性能要求はますます厳しくなっている。以下に、ドイツInfineon Technologies社のマイコン「XC2365」を例に、EPSシステムに必要なマイコンアーキテクチャを解説する。
XC2365は、車載制御マイコンで高い実績を持つC166を改良したCPUコアを持ち、優れた制御およびDSP能力を備える。パイプライン性能が優れているので、C166と比べて周波数が同じでも、2倍近い処理能力を発揮する。また乗加算器ユニットも持ち、行列演算や有限インパルス応答(FIR)フィルタ機能も容易に実現できるのだ。つまり、32ビットの加減算機能を繰り返して16×16ビットの乗算を行うことにより、1つのクロック・サイクルで命令を実行することができるのである。EPSシステムでは、素早い行列演算処理(クラーク/パーク変換)と、強力な比例/積分(PI)コントローラの実装が、ともに重要な役割を果たす。
XC2365は、16の割り込みレベルで、最高128の割り込みソースに対応している。古典的な割り込み処理の他に、ペリフェラル・イベント・コントローラ(PEC)形式のDMA転送オプションがあるのも特徴で、大規模なデータブロックを、16Mバイトのアドレス空間で容易に移動またはコピーすることができる。プログラム・メモリは64ビットで、最高574Kバイトの内蔵フラッシュメモリに対応している。50Kバイトの内蔵SRAMもあり、これを用いたデータ管理も可能である。同社は、次世代チップでメモリ保護ユニットの搭載も検討している。
周辺モジュールには、柔軟性の高いタイマーユニット、3つのUSICモジュール(別々の同期式および非同期式シリアルインターフェースに対応)、捕捉/比較(CAPCOM)ユニット、リアルタイムクロックと監視機能、2つの独立した高速10ビットA/Dコンバータ(ADC)、ならびに3つのCANコントローラを含む。2つの独立したADCは、相電流を制御しなければならない。DC回路内で、1つのADCを用いて測定を順次行った場合は、制御の質が低下する。CAPCOM6(CC6)ユニットは、CPUに依存せずに多相モーターを制御できるよう、特別に開発された。最高7種類のパルス幅変調信号の発生や、入力信号の継続時間とデューティサイクルの記憶が可能であり、CC6ユニットを2つ使用すれば、1つのシステムでモーターを2つまで制御できる。
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図2 Infineon社のEPS用マイコンXC2365の機能ブロック図 |
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